運命が変えた一夜 ~年上シェフの甘い溺愛~
悟は店内に入ると、綾乃を椅子に座らせて店の奥に行きバスタオルを持って戻ってきた。

まるで子供の髪を拭くように、バスタオルでわしゃわしゃと髪を拭いたのは、綾乃の涙に気づかないふりをするためなのかもしれないと、綾乃は思った。

悟は綾乃の髪を拭いて、肩にタオルをかけると、再び店の奥に向かい救急箱をもって戻ってきた。

綾乃の前にしゃがみ、傷の状態を確かめる。
大きな体を小さくして自分の傷を確かめる悟の姿に、綾乃は再び泣きそうになった。

「寒い?」
傷の手当てをしている悟が綾乃の体が小刻みに震えていることに気が付いた。

「・・・少し・・・」
「ちょっと待ってて」
悟はすぐに立ち上がり、何やら厨房でがちゃがちゃと物音を立てる。

「大丈夫です。すぐに帰るんで。」
申し訳なくなって立ち上がろうとすると「まだ手当終わってないから立ったらダメ」と厨房から顔を出した悟は少し厳しい表情を作って綾乃に言う。
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