運命が変えた一夜 ~年上シェフの甘い溺愛~
「はい・・・」
何となく逆らえなくて再び椅子に戻ると、満足そうに悟は笑った。

少しして綾乃の前に戻ってきた悟の手にはスープカップとスプーンが握られていた。

「はい。特製トマトスープ。体が温まるようにショウガもいれたんだ。隠し味。」
「ありがとうございます。」
カップを受け取ろうとする綾乃の手を見た悟は急に険しい顔に戻った。

「手もけがしてる」
言われて自分の手に視線を移して、手の関節をすりむいたことを思い出した。
悟は渡そうとしていたカップを綾乃から遠ざけて、綾乃の前に椅子を出し自分も座るとスプーンでスープをすくい、ふーふーと息を吹きかけて覚ますと綾乃の口に運んできた。

「自分で食べられますっ」
慌てて言うと、悟は有無を言わさぬ表情で「ダメ」とスプーンを綾乃の口にさらに近づけた。

こんなの恥ずかしすぎる。でもせっかく作ってくれたスープがあまりにいいにおいで綾乃はためらってから口を開けた。
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