さあ、有象無象
光輝くんの書籍化が取り下げられたんだそうだ。
ぼくは心底ほっとしていた。発表がある日までどうにかそうなるようにと願っていたものだ。だってそうだ、みっくんの価値はぼくだけが知っているものでなくてはならない。一番初めに彼がぼくに物語を教えてくれた瞬間からぼくが彼の一番で誰かに与えるものではなくなってしまったのだから。外部に触れることは穢れだ。ああ、でも純粋に嫉妬と言ってもいい。きみは飛躍しては困るんだよ、みっくん。翼を生やしてどこかへ飛んで行こうだなんて話が違うじゃないか。それなのにぼくに黙って投稿サイトで名なんかあげちゃってさ、ランキング1位なんてずっととっちゃってさ、持て囃されてさ、みっくん、実に目障りだよ。ぼくが物語を書いてみたらなんて提案したからかい? ぼくに感化されたからなのかい? だったらぼくを介してくれてからじゃないと困るよ、困る、困るんだよみっくん。
投身自殺しようとしたんだってね。5階じゃなくて屋上から落ちちゃえば良かったのに、そしたらぼくが後を追うからさ、そんな売れない小説みたいな話。
「いっそ死ね」
笑いながら机上にぽた、ぽたと涙が落ちる。
その隣、殴り書きしたノートの横に置いたスマートフォンが通知を受けて光を灯す。
《盗作作家しんだね》
《社会的に》
《因果応報》
《私たちBremenさん信者なんでずっとずっと応援してます!!》
《今回はつらかったですね》
《新作待ってます♡》
《ただサイト使えんくなったのはちょっとたるい》
《あ、そうだ Bremenさん》
《相田光輝の作品先にパクったのお前だろ》