愛しても、いいですか
するとパンツの左ポケットに入れていたスマホが振動する。見ると大石さんからLINE。

思わずエレベーターの方を振り返る。
エレベーターホールの壁にもたれてこちらをじっと見つめる大石さんと目が合い、困ったように微笑んで、そのまま今度こそその姿が見えなくなった。

『楽しんできてね』

LINEを開くとそう書かれていて、

『はい!お仕事頑張ってください』それだけ返信した。


慎太郎に連れて行かれたのは、大衆居酒屋より遥かにお洒落な雰囲気の会社近くの個室居酒屋だった。

高校の時のちょっとおばかでお調子者の慎太郎の記憶しかないから、まさかこんなお洒落な居酒屋に連れて来られるとは思っても見なかった、と思ったことをそのまま口にしたら、

「…俺も大人になったんだよっ」

とまた頭を小突かれた。

掘り炬燵になっている座敷に向かい合って座り、今しがた来たばかりのビールで乾杯する。
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