愛しても、いいですか
今まで彼の前で泣いたりしたことはない。
というかむしろ、子供の時を除いて人前でこんなに泣いたのは初めてだ。私にもこんな感情があったことに驚く。
と同時にそれを見られたのが大石さんだということが恥ずかしい。

いつも憎まれ口を叩いて強い自分しか見せていなかった相手にこの醜態は恥ずかし過ぎる…

「…大石さんのばか…」

苦し紛れにそう言えば、

「…はいはい」

全てお見通しとでも言うように軽く抱き締められ、また頭をポンポンされた。
小さな子供にするようなそれは、全然嫌な感じはしなかった。
こんな状況で抱き締められたのでなければ、絶対突き飛ばしている。

「…でも沙耶香ちゃんも、こんな風に素直に感情を表に出すことあるんだな」

大石さんが呟く。
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