愛しても、いいですか
「…俺の彼女に何か用?」 

…今まで聞いたことのない大石さんの声だった。
抑揚のない、それでいて静かに空気を震わせるような低い声。
微かに怒りを滲ませて、相手を突き刺すような冷たい冷たいそんな声。
私からは大石さんの顔は見えないけれど、かなり怒っているのだけは分かる。

そんな大石さんと対峙した2人組は、ちっ、と舌打ちだけ残して足早に去って行ったー

「…大石さん、どうしてここに…?」

回りきらない頭で何とかその背中に問い掛ける。

くるっ、と振り返ったと思った瞬間、ぎゅぅぅっ、と抱き締められた。
すごく、すごく強い力だった。

「…っどうして1人で帰ったんだよっ。一緒に帰ろうって、LINEしたのに…っ」

この数週間ですっかり慣れ親しんだ大石さんの匂いに包まれて安心したら、さっき感じた恐怖を思い出して今更涙が溢れて来た。

「…うっうっうぇーん…」
< 79 / 184 >

この作品をシェア

pagetop