御手洗くんと恋のおはなし
Ep.1 女の子の味方
秋風が舞いこむ、とある教室。
(秋って、恋が深まる季節だなぁ)
なんて、他人が聞けばゲロゲロりんと砂を吐きそうなキザなことを考える少年が一人、席に座って窓の外を眺めていた。
外から流れてくる秋風に、彼は心地よくなって細い目をますます細くする。
御手洗満、十七歳。
ここ、桜塚高校の二年生である彼の心は穏やかだ。暑かった夏休みも終わり、残りの半年をのんびり暮らそうと心に誓う。
笑うと糸目になる満の顔は、仏顔とよく言われた。
いつも口元に微笑を浮かべているような表情、サラサラとした茶色めいた髪と色白の肌は、攻撃的な印象を他人に与えない。
饅頭を置いて拝みたくなるような少年である──と、面と向かって彼に言ったのは誰だったか。
「みーちゃん!」
それは、今しがたバンッと満の机を両手で叩き、変なニックネームと共に現れた黒髪の少女だった。
胸まである長い髪からは、整髪料なのか甘い香り。
最近色気づいてきたな、と満は口をへの字にする。
「どうしたの、カズ」
「聞いてよ! あの坂本先輩に今朝、挨拶されちゃった!」
「坂本……ああ、あの」
満の脳裏に、ぽやんとバスケットボール部キャプテンの爽やか男の顔が浮かんだ。
昔っからああいうタイプに弱いんだから、と嘆息する。
(秋って、恋が深まる季節だなぁ)
なんて、他人が聞けばゲロゲロりんと砂を吐きそうなキザなことを考える少年が一人、席に座って窓の外を眺めていた。
外から流れてくる秋風に、彼は心地よくなって細い目をますます細くする。
御手洗満、十七歳。
ここ、桜塚高校の二年生である彼の心は穏やかだ。暑かった夏休みも終わり、残りの半年をのんびり暮らそうと心に誓う。
笑うと糸目になる満の顔は、仏顔とよく言われた。
いつも口元に微笑を浮かべているような表情、サラサラとした茶色めいた髪と色白の肌は、攻撃的な印象を他人に与えない。
饅頭を置いて拝みたくなるような少年である──と、面と向かって彼に言ったのは誰だったか。
「みーちゃん!」
それは、今しがたバンッと満の机を両手で叩き、変なニックネームと共に現れた黒髪の少女だった。
胸まである長い髪からは、整髪料なのか甘い香り。
最近色気づいてきたな、と満は口をへの字にする。
「どうしたの、カズ」
「聞いてよ! あの坂本先輩に今朝、挨拶されちゃった!」
「坂本……ああ、あの」
満の脳裏に、ぽやんとバスケットボール部キャプテンの爽やか男の顔が浮かんだ。
昔っからああいうタイプに弱いんだから、と嘆息する。
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