御手洗くんと恋のおはなし
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「あー、よくあるパターンだ。好きな人に好きな人がいてってやつ! で、その先もその先も好きな人がいて、報われない恋のオンパレード! 切ない〜」
「それだと安いドラマですよ、赤井さん」
すっかり酔っぱらいと化した先輩をなだめるべく、ナベケンは満に「お水を一杯」と指を突き出した。
苦笑した満は、ピッチャーからグラスに水を注ぎながら言った。
「それがね、片想いのオンパレードはそんなには続いてなかったんです」
「え?」
「中嶋が片想いしていた相手も、中嶋のこと好きだったみたいで」
「ありゃ。じゃあつき合ってたの?」
こてん、と首をかしげた百合に満は目を細めた。
「それがすんなりといかないのが、中学時代ってやつですね」
水入りグラスを百合の手元に置くと、百合は素直に一口飲んだ。
可愛らしいお姉さんだ、と満は苦笑し言葉を続ける。
「ほら、よくあるでしょう。傍目からは完全に両想いな二人なのに、まだつき合ってないパターン。それが中嶋とその相手──戸田さんの関係だったんですよ。他人からすれば、じれったい感じ」
「あー、あるよねぇ。でも当の本人たちは不安なのよね。両想いの確信なんてあやふやだし、友達のままのがいいんじゃないかって」
百合は目を細めて相槌を打つ。彼女も自身の青春を思い出しているのか、ふふ、と小さく笑った。ナベケンが口を挟む。
「赤井さんもそんな経験が?」
「ううん、友達の話よ」
「そうですか」
そこでフッと柔らかく笑ったナベケンを見届け、満は続きを話した。
「で、当時なんとなくカズが気になってた俺、意地悪なことしちゃったんですよね」
「意地悪?」百合がまたしても首をかしげる。
「背中をね──押しちゃったんです」