御手洗くんと恋のおはなし
「ところでカズ、みーちゃんはやめてって言ったでしょ」
「何よ、みーちゃんこそカズはやめてよね。男の子みたいじゃん」
苗字も名前も「み」から始まる満に「それなら、みーちゃんだ」とニックネームをつけてくれたのが、目の前にいる林和葉だった。
中学の同級生だった彼女に、当時思春期の満はムッとして「それなら君はカズだね」と返した。
それ以来、腐れ縁であるこの二人。
何のご縁か高校でも今年、同じクラスになってしまった。
「カズがやめたらやめるよ」
「もう、みーちゃんのケチ」
こんなやりとりも高校まで続くとは思わなかったぞ……と憂う満の気持ちなぞ、和葉は知らない。
傍目にはスレンダー美人な容姿の和葉。長身でキリッとした瞳とよく笑う表情は、少しだけ彼女を強気に見せて、内気な異性は萎縮してしまうだろう。
でもその中身はてんでミーハーなお子様で、恋に恋しているまだまだ未熟な少女だ。
そのままでいてくれよな、いや、ちょっとは気づいてもいいのかもな、なんて満が考えていることに──彼女は気づいてもいない。
「あ、あの……和葉ちゃん?」
そんなやりとりをしていたら、和葉の背後から遠慮がちな女の子の声が聞こえた。
肩らへんまでのミディアムヘアに、キョロキョロと辺りを気にする小さな瞳。どこか庇護欲をそそる、物静かな印象の女の子がそこにいた。
「あ、ごめんね梨花ちゃん! みーちゃんの顔見たら、つい」
「ふふ、仲が良いんだね」
「中学からの縁ってだけだよぉ」
ナチュラルに満の心を傷つける和葉の肩に手をかけて、立ち上がった満は梨花ちゃんと呼ばれた女の子を見た。
襟元のバッチを見れば、同級生ということがわかる。
「えっと、君は?」
満は穏やかに梨花に聞いた。
が、和葉がまた前にしゃしゃり出てくる。
「鈴野梨花ちゃん! 去年クラスメイトだったの」
その向こう側で梨花が小さく会釈した。
出しゃばりと控えめ。いいバランスだ。
「あの、和葉ちゃんに相談してたら、あなたに聞いてもらった方がいいって……」
おずおずと梨花は口を開く。
「御手洗くんのことは有名だから知ってたし、和葉ちゃんにも言われたから来ちゃったけど……その、迷惑なら大丈夫だから……」
突つけば引っ込んでしまいそうな話し方に、満の眼差しは細くなる。
可愛い女の子だな、と素直に思う。そしてそんな目元は、梨花の不安を和らげることに成功した。
「迷惑なんかじゃないよ。えっと、ここでも話せる内容かな?」
「……できれば、ここじゃない方が」
騒がしい昼休みの教室ではあるが、近くにクラスメイトたちはたくさんいる。満は梨花が安心できるように、また微笑んだ。
「それなら移動しよう」
「何よ、みーちゃんこそカズはやめてよね。男の子みたいじゃん」
苗字も名前も「み」から始まる満に「それなら、みーちゃんだ」とニックネームをつけてくれたのが、目の前にいる林和葉だった。
中学の同級生だった彼女に、当時思春期の満はムッとして「それなら君はカズだね」と返した。
それ以来、腐れ縁であるこの二人。
何のご縁か高校でも今年、同じクラスになってしまった。
「カズがやめたらやめるよ」
「もう、みーちゃんのケチ」
こんなやりとりも高校まで続くとは思わなかったぞ……と憂う満の気持ちなぞ、和葉は知らない。
傍目にはスレンダー美人な容姿の和葉。長身でキリッとした瞳とよく笑う表情は、少しだけ彼女を強気に見せて、内気な異性は萎縮してしまうだろう。
でもその中身はてんでミーハーなお子様で、恋に恋しているまだまだ未熟な少女だ。
そのままでいてくれよな、いや、ちょっとは気づいてもいいのかもな、なんて満が考えていることに──彼女は気づいてもいない。
「あ、あの……和葉ちゃん?」
そんなやりとりをしていたら、和葉の背後から遠慮がちな女の子の声が聞こえた。
肩らへんまでのミディアムヘアに、キョロキョロと辺りを気にする小さな瞳。どこか庇護欲をそそる、物静かな印象の女の子がそこにいた。
「あ、ごめんね梨花ちゃん! みーちゃんの顔見たら、つい」
「ふふ、仲が良いんだね」
「中学からの縁ってだけだよぉ」
ナチュラルに満の心を傷つける和葉の肩に手をかけて、立ち上がった満は梨花ちゃんと呼ばれた女の子を見た。
襟元のバッチを見れば、同級生ということがわかる。
「えっと、君は?」
満は穏やかに梨花に聞いた。
が、和葉がまた前にしゃしゃり出てくる。
「鈴野梨花ちゃん! 去年クラスメイトだったの」
その向こう側で梨花が小さく会釈した。
出しゃばりと控えめ。いいバランスだ。
「あの、和葉ちゃんに相談してたら、あなたに聞いてもらった方がいいって……」
おずおずと梨花は口を開く。
「御手洗くんのことは有名だから知ってたし、和葉ちゃんにも言われたから来ちゃったけど……その、迷惑なら大丈夫だから……」
突つけば引っ込んでしまいそうな話し方に、満の眼差しは細くなる。
可愛い女の子だな、と素直に思う。そしてそんな目元は、梨花の不安を和らげることに成功した。
「迷惑なんかじゃないよ。えっと、ここでも話せる内容かな?」
「……できれば、ここじゃない方が」
騒がしい昼休みの教室ではあるが、近くにクラスメイトたちはたくさんいる。満は梨花が安心できるように、また微笑んだ。
「それなら移動しよう」