御手洗くんと恋のおはなし


◇  ◇  ◇


 球技大会を前日に控えた木曜日。
 放課後に満は一人、保健室を訪れた。

「失礼します」
「……!」

 満の姿を見た涼子は、イスから立ち上がりわかりやすく狼狽(ろうばい)する。ハグシーンの目撃者がやって来たのだから、仕方ないことかもしれない。

「今、他に人はいません?」
「ええ……何か用かしら」

 困惑と警戒の意が彼女の顔からにじみ出ていた。それをなだめるように、満は優しく笑う。

「じつは僕、坂本先輩と明日のバスケ試合で、ある賭けをしてるんです」
「賭け?」

 そこで満は涼子に、賭けの内容を伝えた。
 彼女の表情はどんどん険しくなる。

「そんなこと……私には関係ないわ」
「思いきりあると思いますけどね」

 苦笑する満。大人の女性に見えた涼子だったが、その内面はまだまだ若く幼いのかもしれない。そんなところに、あのバスケ少年は惹かれたのだろうかと思う。

「ま、先生には悪い話じゃないですよね。結果次第では、もうつきまとわれずに済みますから」
「……そうね」

 ふいと避けられた視線。横顔を見つめ、満は「では、また明日」と保健室を後にした。

 さぁ、明日の試合を制するのは──どちらか。
< 35 / 109 >

この作品をシェア

pagetop