御手洗くんと恋のおはなし
◇ ◇ ◇
球技大会を前日に控えた木曜日。
放課後に満は一人、保健室を訪れた。
「失礼します」
「……!」
満の姿を見た涼子は、イスから立ち上がりわかりやすく狼狽する。ハグシーンの目撃者がやって来たのだから、仕方ないことかもしれない。
「今、他に人はいません?」
「ええ……何か用かしら」
困惑と警戒の意が彼女の顔からにじみ出ていた。それをなだめるように、満は優しく笑う。
「じつは僕、坂本先輩と明日のバスケ試合で、ある賭けをしてるんです」
「賭け?」
そこで満は涼子に、賭けの内容を伝えた。
彼女の表情はどんどん険しくなる。
「そんなこと……私には関係ないわ」
「思いきりあると思いますけどね」
苦笑する満。大人の女性に見えた涼子だったが、その内面はまだまだ若く幼いのかもしれない。そんなところに、あのバスケ少年は惹かれたのだろうかと思う。
「ま、先生には悪い話じゃないですよね。結果次第では、もうつきまとわれずに済みますから」
「……そうね」
ふいと避けられた視線。横顔を見つめ、満は「では、また明日」と保健室を後にした。
さぁ、明日の試合を制するのは──どちらか。