御手洗くんと恋のおはなし



 しばらくして、満のクラスと坂本のクラスの試合が始まった。
 トラブルメーカー大谷に若干の不安を抱きつつも、満は腰を低くして身構える。

 最初のジャンプボールだけは頼りになる大谷。大きく飛び跳ね先制をしたのは、満たちのチームだった。

「よっしゃあ!」

 叫ぶ大谷。
 しかし、ジャンプボールというのはどこにでも弾けば良いというものではない。大谷が弾いたボールの先に味方は──いない。

「バカ、誰もいないだろ!」

 思わず叫んだ満が見つめたボールの先には、敵チームの人間──よりによって坂本がいた。

「サンキュッ」

 嫌味を吐き捨て、ボールをドリブルし坂本は走る。あっという間にゴールに近づき、シュートを放った。
 吸いこまれるようにボールはネットをすり抜けた。と同時に。

「きゃああ!」

 と聞こえたのは、和葉のミーハーな黄色い声。

(カズのやつ、どっちを応援してんだ!)

 満は仏顔らしからぬ表情を浮かべ、腹を立てた。

 そうして始まった不利な戦いではあったが、その後はいい試合展開になった。
 坂本以外の相手チームが、あまり上手くないのも要因だったのだろう。試合終了間際には、一点差で点を取り合うシーソーゲームとなっていた。

「クソッ」

 しだいに坂本の顔に焦りが出る。
 ここで負けたら、涼子の真意を知らずして諦めなくてはならないのだ。
 今は一点だけ坂本たちのチームがリードしていた。早くホイッスルを鳴らしてくれ、と祈りながら自コートに戻ろうとしたら。

「うおおおー!」

 やけにバカでかい声を発する敵メンバーが、こちらのゴールに向かっていた。
 背が大きく勢いがある。大谷だ。やばい、と坂本は腰を落とした。

< 38 / 109 >

この作品をシェア

pagetop