御手洗くんと恋のおはなし
「ちょ……大谷! パスしろ、パス!」

 遠くでそんな満の声も聞こえた気はしたが、猪突猛進中の大谷には聞こえていないようだった。
 坂本はジャンプするため、力を蓄えようも膝を揺らす。
 止められるだろうか──いや、止めなければ。

(俺は……涼子さん、まだあなたのこと……)

 一瞬、応援席を坂本は見やる。
 そこに祈るように手を組む涼子を見つけた。

(──諦めたくない!)

 坂本は大谷がジャンプしたと同時に両手を上げ、ブロックのため床を蹴った。
 眼前で不敵な笑いを大谷はもらす。

「ふははは! もらったあぁ!」
「……っ!」

 ガコン!
 嫌な音が坂本の頭上で響いた。
 腕の長さとジャンプ力に勝てず──あろうことか、ダンクを決められた。
 百九十近い長身の大谷。何でこいつがバスケ部じゃないんだ、と坂本は愕然とした。
 落ちたボールが床を弾む頃には、体育館に歓声が響いた。

「おい、マジダンクかよ!」
「すごーい! Bリーグみたい!」

 次の瞬間、ピピー! と笛が鳴り響く。
 試合終了。坂本は彼女を諦めなければならない──……が、しかし。

「五番トラベリング!」
「ほへっ!?」

 審判の厳しい声と、大谷のマヌケな声が響いた。
 スコアボードをめくる手は止められ、パタリ、と戻される。

「……やっぱりそうなるか」

 つぶやき満は、うなだれた。
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