御手洗くんと恋のおはなし


◇  ◇  ◇


 球技大会が終わると、坂本は保健室へ向かった。
 無言で扉を開ければ、来ることが分かっていたように、涼子がいつもの白衣姿で立っていた。

「……涼子さん。俺、勝ったよ」

 振り返り見てはくれたが、涼子は口を閉ざしたままだ。坂本はゆっくりと涼子に近づく。

「あいつ……御手洗から聞いたんだろ。ごめん、俺、やっぱり……」
「……聞きたくない!」

 涼子が言葉の続きを遮った。

「そんなの、坂本くんの口から聞きたくないよ……私……私……」
「涼子さん……」

 そんなに自分のことが嫌いなのか、と坂本はショックを受けた。
 御手洗との賭けに勝っても、相手がこれでは意味がない。諦めないことさえ、認められないなんて。グッと唇を噛みしめ、うつむく。

「……良かったじゃない、次の恋に進めそうで」
「え?」

 しかし、発せられた涼子の台詞につい、坂本は顔を上げた。

「女の子とデートできるからってあんなに張りきっちゃってさ……やっぱり高校生同士が良かったんだ、坂本くんも」
「何……言ってんの?」

 まるで訳が分からないことを言う涼子に坂本が首をかしげると、彼女からキッと鋭い視線が飛んできた。

「試合で勝った方が、あの和葉ちゃんって子とデートする賭けしてたんでしょ! 私にさんざん言い寄ってたくせに……サイテー!」
「……はあ!?」
 突然の分からぬ涼子の発言に、坂本は素っ頓狂な声を上げた。
 勝った方が、林和葉とデート……とは。

「涼子さん、何言ってるの? 俺、そんな賭けしてないよ!」
「嘘! だって御手洗くんから聞いたのよ」
「御手洗が?」

 するとそこで、ガラリと保健室の扉が開いた。

「また鍵かけてない。無用心だなぁ」
「御手洗!」

 坂本が叫ぶ前で、満は静かに保健室の扉を閉めた。

「すみません神楽先生、僕、嘘ついてました」

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