御手洗くんと恋のおはなし
 内側の鍵をかけつつそう言った満に、涼子は「えっ」と驚きの声をあげる。振り返った満は仏のように、穏やかに微笑んだ。

「坂本先輩と賭けていたのは、カズとのデート権じゃないんです。あなたへの接触権……みたいなもんです」
「だから、ストーカーみたいに言うなよな」

 ぼやいた坂本の横で、涼子はまだ困惑している。
 そしてすぐに事を理解をして──顔に手を当て、赤らめた。

「御手洗くん、ひどい……!」
「ごめんなさい。でもこうでもしないと、あなた素直になりそうになかったから」

 申し訳なさそうに言うものの、満の表情は悪いとは思っていなさそうだ。
 戸惑う涼子はとなりの坂本を見られずにいたが、それを彼が許すはずはなかった。

「涼子さん、俺があの子とデートするかもって、焦ってたの?」
「そ、れは……」
「そんなことしないよ! 俺……俺、涼子さんだけが好きだから!」
「……っ、坂本くん……」

 ガシッと、真正面から坂本は涼子の肩を掴む。

「先生、本当の気持ちを聞かせてよ! ……俺っ、もしかしたらあなたも好きでいてくれたのかもって、期待して……。でもそれって、思わせぶりだった? 俺をからかって、遊んでた……?」

 熱い坂本の眼差しに、影がさす。
 それに耐えかねたように、涼子は顔を上げた。

「違う! 私……」

 涼子の目から、大粒の涙が。

「ごめんなさい……、私……怖かったの」

 涼子の唇から、本心が──ようやく、現れた。

「卒業して、高校生でなくなったら……坂本くんの世界が広がったらきっと、こんな一教師なんて忘れられると思ったの」
「そんなことない!」
「今は狭い学校の世界だから、大人の私が良く見えるだけなの! でもそれは、まやかしだから……っ」

 ポロポロと、涼子の頬を涙が伝った。

「今までみたいに好きでいてもらえなくなるのが怖くて……いつか離れていくなら、今の方がマシだって……」
「涼子さん……」

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