御手洗くんと恋のおはなし
Ep3. 喫茶店のフーダニット
天高く馬肥ゆる秋──も、終わりかけの十一月。
喫茶店サルビアにて、御手洗満は父、光一の甘い声にうんざりとしていた。
「カーズ、和葉ちゃーん。ねぇ、お願ーい」
「やめて下さい! 店長!」
その声は満ではなくバイトの和葉に向けられていたが、父親の猫なで声など聞きたくはない。
満は執拗に声をかける光一……ではなく、和葉に助言した。
「いいじゃん和葉。少しくらい」
すると和葉は、たいして怖くない怒り顔を作った。
「ひどい、みーちゃん! 乙女の一大決心を!」
「何を今さら。一口くらい大丈夫だって」
「ぐっ……」
ウェイトレス姿の和葉は押し黙る。
彼女の傍らには、カウンターに置かれたショートケーキ。光一特製の、クリスマスに向けた新作スイーツだ。
カウンター向こうで、光一はニコニコと両手を合わせてねだる。
「お願い和葉ちゃん。やっぱり試作品、女の子の意見も聞きたいのよ。満の意見だけじゃ不安だし」
「も、もうっ。仕方ないですねっ」
ようやく和葉は観念して、イスに座りフォークを手に取った。
そこからうっとりとした顔つきで一口頬張るまでに、あまり時間はかからなかった。
「お、おいしい~!」
パクパク頬張る和葉。
「このホイップクリームと、中のフルーツの絶妙なバランスが! しかも上の苺のシロップ漬けがいいアクセントで……幸せっ」
(一口でいいって言ったのに……)
と満は思ったが、言わなかったのは彼の優しさだ。
喫茶店サルビアにて、御手洗満は父、光一の甘い声にうんざりとしていた。
「カーズ、和葉ちゃーん。ねぇ、お願ーい」
「やめて下さい! 店長!」
その声は満ではなくバイトの和葉に向けられていたが、父親の猫なで声など聞きたくはない。
満は執拗に声をかける光一……ではなく、和葉に助言した。
「いいじゃん和葉。少しくらい」
すると和葉は、たいして怖くない怒り顔を作った。
「ひどい、みーちゃん! 乙女の一大決心を!」
「何を今さら。一口くらい大丈夫だって」
「ぐっ……」
ウェイトレス姿の和葉は押し黙る。
彼女の傍らには、カウンターに置かれたショートケーキ。光一特製の、クリスマスに向けた新作スイーツだ。
カウンター向こうで、光一はニコニコと両手を合わせてねだる。
「お願い和葉ちゃん。やっぱり試作品、女の子の意見も聞きたいのよ。満の意見だけじゃ不安だし」
「も、もうっ。仕方ないですねっ」
ようやく和葉は観念して、イスに座りフォークを手に取った。
そこからうっとりとした顔つきで一口頬張るまでに、あまり時間はかからなかった。
「お、おいしい~!」
パクパク頬張る和葉。
「このホイップクリームと、中のフルーツの絶妙なバランスが! しかも上の苺のシロップ漬けがいいアクセントで……幸せっ」
(一口でいいって言ったのに……)
と満は思ったが、言わなかったのは彼の優しさだ。