御手洗くんと恋のおはなし
「冷やかしは禁止だけど」

 そう言った満に。

「冷やかしじゃねーもーん。今日はお客様として来たんですー」

 と生意気そうに言葉を返したのは一ノ瀬。

「和葉ちゃん、よく似合うね」

 と穏やかに席に座ったのが二宮。

「御手洗は店手伝ってないの?」

 とキョロキョロ店内を珍しそうに見たのが三井だ。
 その名前ゆえ数字トリオと呼ばれる、クラスの名物三人組である。

「いらっしゃいませ! はい、どうぞ」

 和葉はニコニコとおしぼりとお水を彼らに配った。不機嫌を隠しつつそれを見守る満には、彼らの目的など分かっているのだ。

「和葉ちゃんのバイト姿、見てみたかったんだよなー。いやぁ、今日来て良かったわ!」

 一ノ瀬のニマニマ笑いが満のかんに障る。そう、彼らの目的は和葉の和装ウェイトレス姿である。
 満のお店でバイトをしていることを隠さない和葉。男人気があるので、こんな(やから)まで来るようになってしまった。
 おかげで満まで、店によく顔を出すはめになる。

「お前ら、飲み物だけなんてケチ臭いことするなよ。来るならしっかり金を落としていけ」
「はは、御手洗は厳しいなぁ」

 苦笑する二宮。その後に、三井が身を乗り出して満に声をかけた。

「なあなあ、お前と和葉ちゃんって、付き合ってはないんだよな?」
「……そうだけど」

 答えると、三人は「やっぱりねー」と安堵したように笑い合った。
 ムッとした満だったが、カウンターから和葉がメモを持って戻ってきたので、眉間の筋肉を緩めた。

「ご注文は何にしますか?」と聞いた和葉に。

「アイスコーヒー!」と一ノ瀬はデレッと答え、
「カフェオレ」と二宮はクールに伝え、
「ミックスジュース!」と三井は元気に返した。
「かしこまりましたっ」と和葉はサービス精神旺盛に笑顔で返すものだから、満としては面白くない。
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