御手洗くんと恋のおはなし


◇  ◇  ◇


 その夜、バーへと切り替わったサルビアにて、満はカウンターの中で苦笑いを浮かべていた。

「百合さん、そんなに笑わなくてもいいじゃないですか」
「アハハ、ごめんごめん! あんまり満くんが可愛くてさぁ」

 満の前で百合は、楽しそうに涙目を拭った。
 先ほどの数字トリオの愚痴をつい、自分の恋愛事情を知る百合に話してしまった。思いのほかに笑われて、少しだけ恥ずかしくなる。

「満くんって不思議だよね。大人びて人の恋愛には首突っ込むのに、自分の恋愛には臆病なんてさ」
「臆病じゃなくて、慎重なんです」

 あと鈍感すぎる相手も悪いのです、と言いたかったが、グッと堪えた。相手のせいにするのは、満の信条に反している。
 満は話題を変えようと、百合にメニューを差し出した。

「ところで今日は、何にします? 作れるレパートリー、僕けっこう増えましたよ」
「えー、どうしようかなぁ」

 ノンアルコールカクテルなら作って良いと光一から許可が出された満は、最近シェイカーを振ることに凝っていた。
 差し出されたメニューを見て、百合はしばし考えると、ひとつのメニューを指さした。

「じゃあ、これ」

 指名されたのは、シンデレラ。レモン、オレンジ、パイナップルジュースで作られる、お酒を飲めない人でもおいしく味わえる、ノンアルコールカクテルだ。

「かしこまりました」
「満くんも一杯つき合ってよ。奢ってあげる」
「ありがとうございます」

 満は手早く二人分、シンデレラを作り上げた。互いのグラスを掲げて笑いあう。

「ではでは、満くんの今後の恋愛が実ることを祈りまして」
「百合さんが自分の恋を見つけて、僕の恋愛にかまわなくなりますように」

 乾杯、と二人は笑い合った。
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