御手洗くんと恋のおはなし
「え!?」

 驚いた梨花の反応に笑い、満はもう一度言う。

「梨花ちゃんの彼氏をぶっ飛ばすのが、まずは第一段階かな」

 満の表情は、穏やかで凪のよう。しかし語る内容は不穏である。

「え、あの、私は痴漢に遭わないようにしたいってだけで」
「そうだね、そのために必要なステップだ」
「何で!」

 疑問をぶつけたのは当事者の梨花ではなく、和葉だった。満はニコニコと言葉を続ける。

「痴漢はね、なくならないよ。絶対に」
「!」

 断定的な物言いに、梨花はグッと喉をつまらせた。

「減らすことはできても、今後まったく遭わないようにするってのは、無理だと思う。こう言っては申し訳ないけれど……梨花ちゃん気弱そうだし、小さいから。痴漢側からしたら、絶好のターゲットになりやすい」
「そんな……」
「ちょっと、みーちゃん! 不安にさせてどうするのよっ!」

 怒った和葉がしゃしゃり出る。
 満自身も言いすぎかと心は痛んだが、彼女がどれほど自覚をしているかの事実確認もしたかった。

「そんなこと……私、言われてもっ」

 そして案の定、梨花は無自覚に気弱だった。
 満は小さく微笑み、持ってきた自らのカバンを開けた。

「はい、これ梨花ちゃんにあげる」
「え!」

 ドサドサッとクレーンゲームの賞品みたく梨花の膝上に放られたのは、さまざまな小物類だった。

「これ何?」
「痴漢対策グッズだね。これは防犯ブザー。胸ポケットにでも入れておくといい。このスタンプは痴漢の手に押すやつ。痴漢したって証拠になるから、触られたら押してやるといい。で、これは痴漢防止バッチ。『痴漢を許さない』って意思表示のためだね。デザイン気にくわないなら、他にもあるよ」
「え、すごーい……」

 思わず、梨花から感嘆のつぶやきが漏れる。
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