御手洗くんと恋のおはなし
 満は仕方ないか、と眉を下げた。
 和葉にはナイショにしておきたかったけれど、それも今回ばかりは出来ないだろう。観念して打ち明けた。

「夜、バーの時だけ実は手伝ってたんだ」
「え、そうなの?」

 和葉は素直に驚いた。サルビアが夜、バー経営をしていることは和葉はもちろん知っていたが、満がそれを手伝っていることまでは知らなかったのだ。
 予想外の言葉に目を丸める。

「そっか、知らなかったな」

 小さく呟く和葉の背後から、興味津々にこちらへと近づいてくるクラスメイトがいた。
 昨日もお店に来た、あの数字トリオだ。

「御手洗、大変なことになってんな」

 一ノ瀬が頬をポリポリと掻きながら言う。

「ていうか、あそこバーもしてたんだな」

 と二宮が興味ありげに呟き、

「俺は知ってたぜ! トイレに広告の紙貼ってあったし」

 と三井がなぜか得意そうに言う。
 賑やかな三人だが、その賑やかしさが今はありがたいな、と満は素直に感じた。

「でもさ、かっこいいじゃん! バーテンダーなんて御手洗ピッタリだしさぁ。俺も振ってみてぇ~」

 ガッチリ肩に手を回して、一ノ瀬が無邪気に言う。満は小さく「ぐぇっ」と悲鳴をもらした。

「それにしても暗いことするやつ、いるのな。気にするなよ、御手洗。あんな文書作るやつ、きっと根暗だぜ」

 優しく二宮がそう言ってくれたので、満も「ありがとう」とだけ返した。

「今度俺たち、バーにも行ってみようか! 飲酒しなけりゃ行ってもいいよな? うまいつまみある?」

 と三井が冷やかし宣言をしたので「それは断る」と満はきっぱり言い放った。
 普段は大人びていても、クラスメイトに囲まれるととたんに年相応の顔になる満だ。そりゃあ百合さんに笑われてしまうよな、と昨夜のことを思い出す。

(……ん?)

 その時何か、満の中で引っかかった。と同時にあの人物の発言に違和感を覚え、もしかして、と眉間を寄せる。
 それが取り越し苦労ならばいい。
 でも──もしかしたら。

 満は賑やかな三人にばかり気を取られて、しょんぼりとしている和葉には気づいてはいなかった。
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