御手洗くんと恋のおはなし
 満は男に近づき、肩に手を置く。またたく間に、男の顔が赤くなった。

「お前、和葉ちゃんに何してたんだよ!」
「見てのとおり、ケーキの試食会だけど」

 たしかに、和葉の前にはおいしそうなケーキたちがフォークを入れられるために待っていた。男が心配していたような、和葉の服の乱れなど一つもない。
 和葉はポカンと、入ってきたその男を見つめた。

「え……い、一ノ瀬くん?」

 和葉に名前を呼ばれた男、一ノ瀬は、グッと口を閉ざして立ちすくんだ。目の前にはまだ、満が一ノ瀬の肩に手を置いて立ちふさがっている。

「さぁ一ノ瀬、説明してもらおうか。今店に飛びこんできた理由を」
「それは……その」
「俺が和葉を襲ってるとでも思った? でも良かったね。俺はお前みたいな下劣な男じゃないんだ」
「だ、誰が下劣だって!?」

 肩の手を振りはらい怒鳴った一ノ瀬を、逆に満は手首をつかんで睨み返した。

「お前がだよ、この盗聴犯。勝手に人の店に仕込むんじゃないよ」
「いってぇ!」

 ギリギリ、と手首を締め上げられて一ノ瀬の顔が赤から青になる。
 それを見届け一ノ瀬から手を離すと、満はカウンターに近づき、その下から何かを剥がした。
 それはテープでカウンターの机裏に付けられた、小さな盗聴器だった。

「防犯カメラに映ってたよ。カウンターからカズに話しかけるふりして、これ付けてるところ」
「うっ……」
「カズへのカードも、黒板の紙も、全部お前がやったんだろ。近くにいる俺を追い払おうとでもしたんだな」

 一ノ瀬は押し黙る。しかしそれを、満が許すはずなどない。

「なぁ一ノ瀬。聞きたいんだけどさ」

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