御手洗くんと恋のおはなし


◇  ◇  ◇


 一ノ瀬の自宅マンションにまで乗りこんだ満は、そのまま彼の部屋へ一緒に入った。
 思いのほか一ノ瀬の部屋は殺風景で、満が予想していたような、和葉の写真だらけ……という内装ではなかった。
 しかし、それでもこのクラスメイトがストーカーまがいの盗聴犯だということに変わりはない。

「ほら一ノ瀬、盗聴器を全部だせ」

 ずっと掴んでいた一ノ瀬の手首を放すと。

「わかってるよ! 偉そうに指図すんな!」

 乱暴にその腕を振り払い、一ノ瀬は吠えた。逆らうつもりや逃げる気はなさそうだが、反省の色などは見えなかった。
 満は小さくため息を吐いた。

「なんであんなこと、したんだよ」

 机の前で引き出しを漁る一ノ瀬の背中に、問いかけた。

「カズのこと好きだったら、あんな回りくどいことしなくても告白すれば良かったのに」
「……簡単に言うなよな」

 ポツリと一ノ瀬が呟いた。動かしていた手元を止め、振り返らずに言葉を続ける。

「俺にとって和葉ちゃんは、つき合いたいとか告白とか、そんなんじゃないんだ」

 そうして語り出したのは、彼が和葉に惹かれたときの思い出──高校二年生の四月のことだった。

「俺、高校入ってからなかなか馴染めなかったんだよ……クラスのやつと。だから二年になっても、どうせ変わらねぇって思ってた」

 そんな風にふて腐れていた時期に、よく話しかけてくれたのがとなりの席の和葉だった。
< 59 / 109 >

この作品をシェア

pagetop