御手洗くんと恋のおはなし
 手品師のように次々と物を手にし解説する満に対して、和葉は口をポカンと開けた。

「何でみーちゃん、こんなに痴漢防止グッズ持ってるの?」

 まさか、みーちゃんも痴漢に遭ってるの? と首をかしげた和葉へ、満は軽くデコピンした。

「バカカズ、んなわけないだろう。前も痴漢に悩む子の相談に乗ったときの、余り物だよ」
「いたぁ~い」

 加減はしたはずなのに、恨めしそうに和葉はにらむ。その視線を受け流して、満は梨花に声をかけた。

「出来る限りの抵抗をしよう。しないと、君はいつまでもか弱い被害者だ」
「う、うん……」

 梨花は小さくうなずく。
 膝上の物たちが彼女の顔つきを少しだけ強くさせたが、まだ足りない。
 その原因は、何も彼女の気弱という内因的要因だけではない。被害者がいるということは当然──加害者がいるのだから。
 そしてそれは、数多(あまた)いる痴漢本人だけではない。無自覚の加害者もいる。

「……で、梨花ちゃん」
「ん?」
「君の彼氏とは、どこのどいつかな?」

 にっこりと笑う満の顔を見て、梨花は先ほどの彼のセリフを思い出して、口を引きつらせた。

 ぶっ飛ばそう──たしかに彼は、仏のように笑いそう言っていたのだ。
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