御手洗くんと恋のおはなし
◇ ◇ ◇
入院生活四日目となると、和葉も病院生活にようやく慣れてきた。
もう二、三日で退院できると医師には言われていたので、早く帰りたいなぁと和葉はベッド横の加寿子につぶやいた。
「二、三日なんてあっという間よ」
若い人の時間の経ち方は遅いのよねぇ、なんて加寿子は穏やかにつぶやく。
夫婦は似てくると言うが、満にそっくりな夫を持つ加寿子の笑顔は、どことなく満に通じるものがあった。
和葉は以前のことを思い出して、加寿子に体を向けた。
「小林さんの旦那様のお話、聞きたいなぁ」
「え?」
「馴れ初めとか! ね、教えて下さいよ」
「あらあら、ふふ」
加寿子は口に手を当てて小さく笑う。そして「そうねぇ」と、上を見て、そして和葉越しに窓を見た。
外は小雨。ここ数日続く細い雨糸が、すだれのように空間に模様をつけていた。
「馴れ初めはね、やっぱり雨なの」
「雨男なんでしたっけ」
「そう。彼が雨宿りしていたバス停に、私が駆け込んで……。美晴さんったら、突然『すみません、僕が雨男なもので』なんて言うものだから、私笑っちゃって。年上の男性が可愛らしく見えて、思わず、まだ濡れている彼にハンカチを貸してあげたの。それがきっかけ」
「ひゃあ、ドラマみたい」
目をキラキラ輝かせた和葉に、加寿子もつられるように笑った。
「雨の日は好きよ。あの人がすぐそばにいるみたいに感じられるから」
そうして窓の外を見た加寿子につられ、和葉も外を見た。
小雨ではあるが、今日も満は来てくれるだろう。和葉の思いつきの罰を素直に受けて、彼は毎日足を運んでいる。