御手洗くんと恋のおはなし


◇  ◇  ◇


 入院生活四日目となると、和葉も病院生活にようやく慣れてきた。
 もう二、三日で退院できると医師には言われていたので、早く帰りたいなぁと和葉はベッド横の加寿子につぶやいた。

「二、三日なんてあっという間よ」

 若い人の時間の経ち方は遅いのよねぇ、なんて加寿子は穏やかにつぶやく。
 夫婦は似てくると言うが、満にそっくりな夫を持つ加寿子の笑顔は、どことなく満に通じるものがあった。
 和葉は以前のことを思い出して、加寿子に体を向けた。

「小林さんの旦那様のお話、聞きたいなぁ」
「え?」
「馴れ初めとか! ね、教えて下さいよ」
「あらあら、ふふ」

 加寿子は口に手を当てて小さく笑う。そして「そうねぇ」と、上を見て、そして和葉越しに窓を見た。
 外は小雨。ここ数日続く細い雨糸が、すだれのように空間に模様をつけていた。

「馴れ初めはね、やっぱり雨なの」
「雨男なんでしたっけ」
「そう。彼が雨宿りしていたバス停に、私が駆け込んで……。美晴さんったら、突然『すみません、僕が雨男なもので』なんて言うものだから、私笑っちゃって。年上の男性が可愛らしく見えて、思わず、まだ濡れている彼にハンカチを貸してあげたの。それがきっかけ」
「ひゃあ、ドラマみたい」

 目をキラキラ輝かせた和葉に、加寿子もつられるように笑った。

「雨の日は好きよ。あの人がすぐそばにいるみたいに感じられるから」

 そうして窓の外を見た加寿子につられ、和葉も外を見た。
 小雨ではあるが、今日も満は来てくれるだろう。和葉の思いつきの罰を素直に受けて、彼は毎日足を運んでいる。

< 69 / 109 >

この作品をシェア

pagetop