御手洗くんと恋のおはなし
◇ ◇ ◇
安藤慎一、倉山男子高等学校、同い年の二年生。
梨花と同じ中学だった彼とは、卒業式に告白されたことをきっかけに交際をスタートさせたという。
元ハンドボール部の副キャプテン。優しくて明るく、友人も多いと梨花は語らった。
「優しい男は無神経なことは言わないけどね」
「みーちゃん、男の子には厳しいよね」
帰宅中の満と和葉。
和葉のご要望で、ショッピングモールの専門店にあるクレープ屋さんに立ち寄ろうと移動中だ。
「俺は女の子の味方なんだよ。それよりもカズ、クレープ屋さんって何階?」
「二階だよ。エスカレーターで行こっか」
満は、すぐそばにあったエスカレーターにそのまま乗り込んだ。
ステップをひとつずらし、和葉も後ろに立つ。満は体を横に向けながら会話を続けた。
「さて、慎一くんにはどうやって接触しようか。いきなり俺から言われても、ピンとこないだろうし」
「梨花ちゃんに頼んで会わせてもらう?」
「んー、でも彼女がいる前だと、取り繕うとするんじゃないかな。話を聞いてると、けっこう梨花ちゃんのことは好きみたいだし……」
言いながら和葉の方をチラリと見る。
エスカレーターの段差一つ分低い和葉の向こう側に、もう一人の人物がいることに気がついた。
何てことはない普通の男。おそらく満たちよりやや年上の若い男は、スマホ片手に顔をうつむけている。
そう。どこにでもいる、どこでも見かける人の動作。
でもそれを、満は見逃さなかった。
エスカレーターを上りきり二階につくと、男もそこで降りて違う方向へ向かった。満は和葉の背をやんわり押した。
「カズごめん、先行ってて」
「へ?」
「ちょっとトイレ」