御手洗くんと恋のおはなし
(ちょっと、申し訳なかったなぁ)

 ワガママ言い過ぎちゃった、と和葉は小さく反省する。
 満相手だと、どうも子どもっぽくなる自覚が和葉にはある。それは優しすぎる彼に甘えている証拠でもあるのだとわかっている。
 でも。

(みーちゃん……どういうつもりだったんだろう)

 ふいに和葉は、キスされそうだったシーンを思い出して顔が熱くなった。
 あの時ばかりは仏のみーちゃん、なんかじゃなく、一人の男の子として見えてしまった。
 それが和葉にとっては、何だか気恥ずかしくて、思い出すと少し……息苦しくて。
 からかわれただけだと理解しているのに、やたら意識しそうになる自分を落ちつかせることに、精一杯だった。今までになかった己の気持ちの変化に、ついていけなくなりそうになる。

(もうっ、甘いの食べなきゃやってらんないよっ)

 昨日もらったマカロンを加寿子と一緒に食べようかな、と和葉は窓から振り返った。
 すると、ベッド上で加寿子が上半身を丸めうずくまっていることに、気がついた。

「こ、小林さん!」
「……うぅ」

 苦しげな表情と声。ただ事ではない。
 和葉は慌てて、手元のナースコールを押した。

「小林さん、今、呼んだから!」

 片足で加寿子のベッドに近寄り、彼女の背中に手を添える。
 荒く呼吸をする加寿子からもらされた小さな声を、和葉の耳が拾った。

「み、はる……さん」
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