御手洗くんと恋のおはなし
◇ ◇ ◇
(今日はこれで、勘弁してもらおう)
病院のエレベーターの中で、満はそう思う。毎日スイーツや甘いものを貢ぎ物として買っているが、そろそろ財布の中も厳しくなってきた。今日はひとつ百円の今川焼き二つで乗り切ろう、と考えていた彼の抱える紙袋からは、あんこの甘い香りが漂っている。
和葉の病室がある七階につくと、エレベーターの扉は開いた。と同時に、ストレッチャーをひく看護師たちの姿がその前を駆け抜けた。
その上にいたのが加寿子だったので、満は目を見開いた。
大型エレベーターに向かうストレッチャーは角を曲がると、満からは見えなくなる。
近くにいたナースステーションの看護師たちが、ヒソヒソと話していた。
「小林さん、心臓の病気だっけ」
「今回は手術入院って聞いてたけど、その前にこんなことになるなんて……大丈夫かしらね」
その会話を耳にしながら、満は和葉の病室に向かう。
やはり、泣きそうな顔をしている彼女がベッド上に座っていた。
「みーちゃん……」
「カズ、ちゃんと横になってなきゃ」
いつもより柔らかく聞こえるように、満は気をつける。しかし和葉はまだ不安げに、座ったまま満を見上げた。
「どうしよう、小林さん……今、運ばれちゃって」
「うん、今すれ違ったよ」
「……大丈夫かな」
満は何も答えられずに、紙袋をサイドテーブルの上に置いた。
そしてそのまま、和葉の横に並ぶように座る。二人分の体重を受けて、小さくベッドが鳴った。
「きっと……大丈夫だよ」
「うん……」
満は和葉相手だと、うまい言葉を選べられない。安心させることのできない歯がゆさからそっと手をさしのべて、彼女の頭をなでた。それを受け、和葉は満を見つめる。
「みーちゃん……あの」
和葉は何やら考えこんで、小さくつぶやいた。
「お願いしたいことが、あるの」