御手洗くんと恋のおはなし
◇ ◇ ◇
加寿子はそのまま別室に移り、和葉の病室に戻ることはなかった。
明日退院となった和葉は、松葉杖をつきながら加寿子のいる個室にまで足を向けた。
「こんにちは、小林さん!」
「あら、和葉ちゃん」
ベッドで横になっていた加寿子は、嬉しそうに来訪者を歓迎した。身を起こす動作はゆっくりで、少しだけ以前の彼女より疲れをにじませている。
「あ、無理しないでください」
「大丈夫よ、これくらい」
加寿子は優しく笑った。
「明日、退院なのよね?」
「はい、小林さんのおかげで入院生活も楽しく過ごせました!」
「こちらこそ、楽しかったわ。ありがとう」
微笑みは以前と変わらず優しげで、和葉は良かったと胸をなで下ろした。
自分はこれで退院してしまうが、加寿子はまだここにいるのだ。彼女のために何かをしてあげたいと、和葉は考えていた。
「あの、小林さん。今日はゲストがいるんですよ」
「ゲスト?」
「うん! みーちゃん、入ってきて!」
和葉がそう言うと、再び個室の扉が開いた。そこには、スーツを着た満がネクタイに指を添えて立っていた。
「こんにちは、小林さん」
「あらあら」
加寿子は笑った。
スーツを着こなした満はいつもより精悍で、髪も後ろに撫でつけて大人びて見える。誰かに似ている、と思う前に自然に口からついて出た。
「美晴さんそっくり」
髪型といいスーツ姿といい、あの写真の夫と瓜二つの青年が、そこにはいたのだ。
「でしょう! 前見せてもらった写真そっくりに、みーちゃんを仕上げてみました」
「僕なんかで申し訳ないですけれど……すみません」
明るく笑う和葉と、彼女に背を押されて加寿子に近づく満。
優しい二人を見て、加寿子も目尻にしわを作った。