御手洗くんと恋のおはなし
「『すみません』はあの人の口癖だったわ。そう言われると、本当に美晴さんみたい」
「はは、そうですか」
「笑い方も似てるわ。嬉しい……あの人が会いに来てくれたみたい」

 その時、ザァッと外で雨の音がした。
 今週ずっと続いている雨は、今日をピークにして終わるだろうと天気予報で言われていた。バラバラと窓を叩く音が、室内に小さく響く。

「雨が強くなってきたわね」

 とつぶやいた加寿子の言葉を受けて、

「ええ」

 と満は小さく返す。
 しばらくシンと室内は静まり、雨音だけが三人を包んだ。
 その静寂を破ったのは、満の落ちついた声だった。

「あの日みたいだ」

 窓の外を見つめながら言った満に、加寿子は顔を向けた。和葉も、彼の言葉に顔を上げる。
 満はただ、目を細めて加寿子を見た。

「あの日のバス停も、こんな雨に囲まれてて……そこで出会った」

 バス停というキーワードに、加寿子はそういえば和葉に馴れ初めを話したのだ、と思い出す。きっと満も、それを聞いたのだろう。

 たしかにあの日は今日みたく、激しい雨だった。だからバス停に駆けこんで……そしたらあの人、美晴もいたのだ。


「……あの日、君が駆けこんできたとき」

 また静かに、満の声が響く。

「とても綺麗だと思った。少し離れたところにいた僕は、少し緊張してしまって」
「……満くん?」

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