御手洗くんと恋のおはなし


◇  ◇  ◇


 パシャッと踏んだ水たまりが、ズボンの裾を濡らした。
 それに気を取られつつも満は、病院を出るまでにした和葉との会話を思い出していた。

「本当に覚えてないの!? 小林さんとの会話とか、抱きしめてたこととか!」
「うーん、俺そんなこと本当にしたわけ? 小林さんにスーツ姿見せたところまでは、覚えてるんだけど……」
「じゃあやっぱり美晴さんだったんだ! すごい! 素敵~」

 気がつけば泣く加寿子を抱きしめていた満は、慌てて手を離した。後ろにいた和葉に事情を聞くも、その内容はファンタジーめいていてどうも納得できない。
 非科学的なことは基本、信じない満だ。幽霊だの死後の世界など、突拍子がなさすぎる。

(和葉はすっかり興奮しちゃうし、話になんないや)

 和葉は明日、退院する。お見舞いもこれで最後になるので、加寿子と会うこともないだろう。
 再び現れた大きな水たまりに、満はつい足を止めた。そこに鏡みたく、自分の姿が映っている。

「……あなた、俺に何したの?」

 満に瓜二つの幻影は、風の波紋で崩れていく。
 水たまりをひとっ飛びした満は、美しく晴れた空の下を歩いた。
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