御手洗くんと恋のおはなし
Ep5. 素顔のファインダー
「じゃあ、待ち合わせは現地集合にするか」
「わかった」

 冬休みに入ったばかりの、十二月下旬。
 年末年始も近い頃、満は友人の大谷と街をぶらついていた。
 大谷の熱いのろけ話を聞き、その流れでなぜか水族館へのダブルデートを提案された。
 メンバーは大谷とその彼女、満と和葉である。
 今は満の自宅である喫茶店サルビアで一服しよう、と歩いている最中だ。

「にしてもさぁ、お前らいつになったらつき合うわけ?」

 満と和葉のことだろう。人の恋愛には目ざとい大谷が、ニヤニヤと笑っていた。

「大きなお世話。相手は宇宙一の鈍感なんだ。じっくり攻めているんだよ」
「たまにはガツガツいかねーと、気づかないんじゃない? 俺を見習いなさい、俺を!」

 猛アタックで今の彼女を射止めた大谷に言われ、つい満も愚痴をこぼす。

「分かりやすくアピールしてるはずなんだけどね」
「今度のダブルデートで告っちまえよ。来年は受験だし、今年くっつけばデートし放題よ?」
「そうだねぇ」

 そううまくいくかな、なんて満は苦笑した。
 今日は和葉のバイト日だから、喫茶店にいるはず。ついでに水族館の提案をしようと考えながら、ついた喫茶店の戸を開けた。
 カランコロン、と鳴るベルと同時に。

「満、おっかえりー!」
「わ!?」

 突然誰かが、ガバッと満に抱きついてきた。
 ショートの髪と、大きなイヤリングを揺らす女性。季節はずれなサングラスをずらしながら、首元に回した手をそのままに微笑んだのは──。

「母さん!」
「久しぶりだねぇ、元気してた?」

 満の母親、御手洗洋子(ようこ)だった。トレンチコートから黒のスキニーパンツとショートブーツの足元をのぞかせ、スラリとした彼女は雑誌から飛び出たような気品がある。

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