御手洗くんと恋のおはなし
「母さん、インド行ってたんだっけ?」
「ああ。あとネパールとブータンにもな。なかなか楽しかったぞ」

 そんな会話をする二人を見て、大谷が「すげぇ」と言葉をもらしながらテーブル上の写真をいくつか手に取る。
 そこにはどこか親近感のわく子どもたちが壮大な山を背景に、歯を見せて笑っていた。

「それはブータンの農家の女の子たちだね。いい笑顔だろう」

 くしゃりと洋子自身も笑い、手元の写真を慈しむように撫でた。

「人を撮るのはやっぱり面白いな。素顔を映し出せたときが、一番楽しい」

 洋子はカメラの魅力に取り憑かれて、ろくに家にも戻らない生活を続けている。
 けれど、無邪気に写真のことを語らう母の笑顔は嫌いではない。満は止まらぬ洋子の写真解説に、耳を傾けた。

「でこれが、ガンジス河の──」
「洋子さん! お待たせ、スペシャルケーキよ!」

 途中で乱入してきたのは、父の光一だった。
 手には特製ショートケーキ。ひとつだけ豪勢にたくさんのイチゴで飾られ、洋子の前にドンッと置かれる。残りの二つの通常版は、満と大谷の前に並べられた。

「わぉ! ありがとう」
「洋子さんのために、とっても頑張ったのよ」
「ありがとう光ちゃん。愛してるよ」
「僕もだよ、洋子さん!」

 年甲斐もなくラブラブモードに突入する両親に、満は見て見ぬふりをして一緒にきた和葉からコーヒーを受け取る。
 横で大谷が「うぉ」と小さくもらした。

「お前んとこ、すっごいラブラブだな」
「昔から見せつけられてたから、もう慣れたさ」

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