御手洗くんと恋のおはなし
 これがうちの両親の形だ、と満は笑う。
 大谷も「なるほどねぇ」と一緒に笑い、コーヒーを置いて去ろうとする和葉に「あ」と声をかけた。

「なぁ林、今度の金曜日ヒマ? 御手洗と水族館行くんだけど、お前も来ない?」
「え、水族館?」

 足を止めた和葉はきょとんとする。
 ああそうだ、今日はそれが目的でここに来たのだと満も思い出す。

「一ヶ月前にリニューアルオープンしたんだって。望月さんも来るらしいよ。カズも行こうよ」

 大谷の彼女とは和葉も仲が良いから大丈夫だろう、とふんでいたのだが。

「あ……ごめん! その日はダメなんだ」

 残念ながら和葉は、両手を合わせて満と大谷に謝った。

「本当にごめんね」
「いや、予定あるなら仕方ないよ。大丈夫」

 そう満が答えると、和葉は安心したようにカウンター内へ戻って行った。
 それを見送る満の横で、大谷が頭をかきながらつぶやく。

「あちゃー、林はダメか。御手洗はどうする?」
「何が楽しくてお前たちのデートについてくんだよ。カズが行けないなら、俺もやめておくよ」
「だよなぁ」

 苦笑する大谷と、少し口を曲げる満。
 そんな二人の前で、パシャリとカメラのシャッター音が鳴り響いた。

「ちょっと母さん、何勝手に撮ってるんだよ」
「いや、息子の珍しいふて腐れ顔をだな」
「やめてよ、ちゃんと消しておいてよ?」

 仏のみーちゃんと言われる満にしては珍しく、ムッとした表情で洋子に釘を刺した。
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