御手洗くんと恋のおはなし
 満が和葉を、見間違うはずがない。
 カフェの窓越しに見えた和葉は、ドリンクを飲みながら楽しげに男とおしゃべりをしていた。
 満の見定めが正しければ、男の年齢は二十代後半といったところか。アッシュグレーに染められた短髪とファッションに洗練された印象を受けるが、普通の社会人らしさを感じさせない。

(何だよあれ。男と会うのが予定だったわけ?)

 あくまで和葉とは、友人関係だ。
 でも満は恋愛感情を持っているわけで、この組み合わせはやはり気になる。カフェの窓に近づくと、ノックした。
 すると和葉は驚いたようにこちらを見て、慌てて席を立ち、外に出てきた。男は置いてけぼりだ。

「みーちゃん!」

 出てきた和葉は、見たことのない可愛らしいワンピースを着ていた。
 落ちついたイエローの裾が広がるAライン。正直とても可愛く見えたが、それがなぜか余計に、満の神経を逆撫でた。

「偶然だね。邪魔した?」
「う、ううん。みーちゃんは何してたの?」
「何も。暇だからプラプラしてただけ。カズは?」
「あ……えーと、その」

 和葉はなぜか言葉を濁す。
 チラチラと横目で、窓越しに男を気にしているようでもあった。満はつい、ムッとしてしまう。

「あいつ、誰?」
「え、えーと、親戚……のお兄さん! いとこなの、いとこ!」
「ふーん?」

 本当かどうか怪しいところではあった。
 でもひとつだけ、満にはわかる。和葉はどうやら男のことを満にあまり話したくなさそうだ。
 ひしひしと早く去ってくれないかな、なんてオーラが彼女から感じられる。

(……気にくわないね)

 これが恋情からくる幼稚なジェラシーとわかっていても、くすぶる気持ちが抑えられなかった。

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