御手洗くんと恋のおはなし
「なんで俺に言わなかったの?」
「あ、それは私がナイショにしてくれと頼んだんだ。満を驚かせたくてな」

 和葉へ投げかけた質問は、横から洋子が答えてくれた。カメラを弄りながら笑っている。

「どうだ満、和葉ちゃん可愛いだろう」

 その問いに、満は小さく呻いて目の前の和葉を見つめる。

 いつもはしない化粧はナチュラルで、彼女の素材を良く引き出していた。これはカフェの時には見られなかったから、あの満とのケンカの後に、内田から施されたのだろう。ウェーブかかる髪型も同様に。
 和葉はきっとただ単純に、女の子として可愛くなりたいという願望で、変身をしたのだろう。
 でも彼女が今、嬉しそうに立ってくれているのが自分の目の前であることが、満は嬉しくて。
 だから。

「うん──可愛い」

 と自然に、口からこぼれた。
 和葉も嬉しそうに笑ってくれるから、その後の謝罪も自然に言うことができる。

「ごめんなカズ。俺、ひどいこと言った」

 すると和葉は目をしばたたかせて、わざとらしく怒ってみせた。

「本当だよー! 私すごく傷ついた」
「反省してます」
「みーちゃんは女の子の味方だよね?」
「はい、その通りです」
「なら、私の味方でもいてねっ」
「……はい」

 忘れかけていた己の信条を和葉に改めて言われて、満は苦笑する。
 たしかに満は女の子の味方だ。
 でも、和葉にだけは味方以上の気持ちもあるんだよ──と言いたかったが、親の手前言えるはずもなく。

「……で、母さんの企みは何?」

 近くで見守っていた洋子に声をかけた。

「もちろん写真撮影。せっかく息子のまわりに可愛いガールフレンドがいるんだから、収めたくてな」
「ガールフレンド、ねぇ」

 女友達という意味合いだろうが、まぁそれも悪くはないかな、と和葉に視線を送った。彼女は読めない表情で、ほんのりはにかんでいるだけだ。

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