御手洗くんと恋のおはなし
◇ ◇ ◇
年も明け、二月。
街中の大通りに面したとあるレンタルスペースで、小さな写真展が催されていた。
プロ・アマ問わずの写真家たちが、同じテーマで撮った写真を展示したイベントだ。そこにはもちろん「御手洗洋子」の名前もあった。
入り口でもらったパンフレットを片手に、大谷がつぶやいた。
「へぇ、けっこう人いるんだなぁ」
そのとなりには、こぢんまりとした女の子が大谷の手元を覗いていた。
「この人が御手洗くんのお母さん? キレイだね」
「ありがとう。母も喜ぶよ」
大谷の彼女、望月美羽だ。凸凹の身長差カップルである彼らは目を引くが、本人たちは気にもとめない様子でいつもラブラブだ。
今日はこの二人を誘って、洋子の参加する写真展へ足を運んでいた。以前、水族館のお誘いを断っていたのでそのお返しのつもりだったが、もう一人誘った相手──和葉は、後ろでビクビクしている。
「カズ、どうしたの」
振り返るとまだ入り口付近で、和葉は頬を赤らめている。冬の外気のせいではなく、緊張のようだ。
「だ、だって私の写真もあるんでしょ? まさかこんな写真展に出されるなんて、思ってなかったんだもん!」
「まぁ、急きょ決めたみたいだしねぇ」
「……みーちゃん、なんか楽しそう?」
「そう?」
実際、満は今日の展示会を楽しみにしていた。母の洋子は当日のお楽しみ、と言って和葉の写真を見せてくれなかったからだ。
パンフレットを見ると、右側が入り口で、その後は反時計回りにグルッと会場を回るようだ。洋子のブースは最後。今回の写真展では、一番実績も人気もある彼女はトリをつとめている。
出口から出てきたお客の何人かが、チラチラと和葉を見た。「あれ、あの子」「うん、そうじゃないかな」なんてヒソヒソ聞こえたので、和葉は慌てて満の影に隠れた。
「うひゃあ! 私、有名人?」
「たかが写真展で大げさな。ほら、大谷たち入っちゃったよ。俺たちも行こう」
「う、うん」