御手洗くんと恋のおはなし
 和葉を促して満も会場へと入る。少し先に大谷と美羽の姿が見えたが、手をつないでのラブラブモードに突入していたので、近づくのはやめにした。
 壁に飾られた大小さまざまな写真パネルを眺める。天井からのダウンライトと、壁の小さなスポットライトで照らされているそれぞれのパネルには、人々の様々な顔が浮かび上がっていた。

「わぁ、すごい……」

 素直に感激している和葉の声が聞こえた。満は写真を眺めながらつぶやく。

「今回はポートレートが得意なカメラマンが集まってるんだって」
「ポートレート?」
「人物写真だよ。母さんも、それ専門だし」
「そういえば、喫茶店で見せてもらったやつも人ばっかりだったね。人が好きなんだね」
「……そうかもね」

 母は、人のどんな顔を撮るのが好きと言っていたっけ。
 思い出そうとしたが、満はついとなりの和葉ばかりが気になってうまく思い出せなかった。
 まさか、公園のときの和葉の写真を展示会に出されるとは。

(これ以上和葉に、変な悪い虫つかなきゃいいんだけど……)

 と満が考えていることも知らずに、和葉は飾られているパネルに夢中になって鑑賞していた。
 そのうちに、やっと洋子のエリアが見えてきたので満は楽しげに指さした。

「あ、もうすぐだよ。大谷たちもいる」
「うっ、緊張してきた……!」

 一つ頭が抜きん出ている大谷を目印に、人が数人固まっている場所へ近づく。
 壁にはもちろん、洋子の撮った写真。あの日の和葉の姿があった──が。

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