御手洗くんと恋のおはなし
　鈍感な和葉。だからきっと、このパネルに写っている満の表情とタイトルの意味なんて、気づきはしないだろう。
　腹をくくって満は目の前のパネルを見た。
　アップで映された満の顔は、少し拗ねたように口を尖らせて、目を細めている。
　胸元までなので足元は写ってないが、枯れ葉が八つ当たりをされ蹴り上げられていることを、満とカメラマンだけが知っている。
　パネル下に付けられたタイトルは「ジェラシー」。
　あの日、和葉とケンカをしてむくれていた満をたしかに洋子は撮っていたが……よくもまあ、息子のやきもち姿なんぞを作品にしてくれた、と満は息を吐く。
　そんな彼の肩を、ガシッとつかんだのはもちろん大谷で。

「よ、今日告白する？」
「……あのタイトルの意味に、カズが気づいたらね」

　と、満は複雑な気持ちで言葉を返した。
　でもきっと、彼女は気づかないのだろう。
　それでいい。いつか写真越しじゃなく、きちんと自分から告げる日まで、と満は考えている。
　そうして満は思い出していた。洋子がなぜ、人の写真ばかりを撮っているのかを。


──人を撮るのはやっぱり面白いな。素顔を映し出せたときが、一番楽しい。
──このファインダー越しなら、お前の素顔も見られるかもね。


「なんか……やられたなぁ」

　もしかしたらあの内田という美容師も、意図的に近づけたのではと洋子を疑ってしまう。
　写真展のテーマは『こぼれた素顔』。
　満は、素顔の意味がいつか伝わりますように──と、いとしく和葉を見つめた。
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