罰恋リフレイン
テーブルにお札を置いて冬木さんは本当に店から出て行ってしまった。
冬木さんと距離を近づけたかったのに、これではいつまでも先輩後輩のままだ。
私は店のドアを名残惜しそうに見ていたのだろう。蒼くんは不機嫌そうな声で「いい加減こっち見てよ」と言った。
「急に来て悪かったとは思ってるから……でも電話通じないし……」
「知らない番号からは出ないようにしてるの」
「俺の番号消したの?」
私は無言でカシスオレンジを飲み干してグラスを空にした。
「私たちも出よう。明日も仕事だから帰りたい」
言外に「このまま蒼くんと二人で居たくない」という気持ちを込めた。
残りのお会計は全て蒼くんが出してくれた。借りを作りたくなかったのに蒼くんは私のお金を断固として受け取らなかった。
「家まで送る」
「いいよ。一人で帰れるから」
「送らせてよ」
悲しそうな顔と声を向けられることが疲れてきたから仕方なく送ってもらうことにした。
私の家の方面の電車に乗ると蒼くんは「懐かしい」と呟いた。
「薫はまだ実家?」
「うん」
蒼くんは大学から一人暮らしを始めた部屋にまだ住んでいるのだろうか。「蒼くんは?」と言いかけて口を閉じた。もう関わりたくないのだから質問をしたくない。
「さっきの人さ、まさか彼氏?」
突然の質問に面食らう。
「え、違うよ!」
「そう……なら良かった」
ほっとした顔をするから居心地が悪くなる。その反応を私はどう受け止めたらいいのだ。
やり直したいと言ったことは本気なのか。私がその言葉をどう感じるか想像できないのだろうか。
「私は冬木さんの彼女になりたいと思ってる」