罰恋リフレイン
「あのさ……それ、俺が欲しい」
「夏城くんが?」
「うん……良ければ欲しい……ダメかな?」
「ダメじゃないけど、私これ気に入ってて」
「頼む」
思わず必死になってしまう。これは俺と薫の思い出の一部だ。薫がいらないとしても第三者の手元にあってほしくない。
氷室も戸惑ったようだけど、俺の顔を見て渋々キーホルダーをカバンから外した。
「どうぞ」
「ありがとう……」
受け取ったキーホルダーはいつも触れているものと同じなのに重たく感じる。丸みを帯びた間抜け面の可愛いキャラクターは俺を見上げて笑っている気がする。
「あのさ、夏城くんと日野さんってどういう関係?」
氷室の質問に答えることができない。
「さあ……俺もどういう関係なのか知りたくなったよ……」
無理矢理笑顔を作ると氷室も笑う。
付き合ってると思っているのは俺だけなのか? って。
手元にある二つのキーホルダーをベッドに並べた。
氷室にあげたということは、やっぱ俺への気持ちが冷めたってことなのか?
でもこれは薫の推しキャラじゃないからいらなくなっただけかも……。
それとも俺が見えるところに付けないことを怒ってるのか?
些細なことが気になって仕方がない。
たかがキーホルダーに悩むなんてバカだとは自覚している。負い目があるからどんな時もどんなことも薫が浮かぶ。
『キーホルダーまだカバンに付けてる?』
思い切ってLINEで聞いてみた。氷室にあげた理由を素直に聞けない。理由を知りたいのに薫の本心に触れるのが怖い。
『どこかに落としちゃったみたいで……ごめんなさい』
返信に目を通すと増々不安になる。氷室は薫にもらったと言っていたのに薫は落としたと言う。俺とお揃いで買ったものをいらなくなったと言えなくて嘘をついているのではと嫌な考えが頭をよぎる。