エリート外科医の灼熱求婚~独占本能で愛しい彼女を新妻に射止めたい~
「ねぇねぇ、あの噂ってほんとかな?」
「あー、佐藤副院長の娘さんと、近衛先生が婚約するって話?」
ドクン!と、心臓が不穏に高鳴った。
今、たしかに近衛先生って聞こえた気がするけど……。
副院長の娘さんと婚約って、どういうこと?
「たしか、佐藤副院長と近衛先生のお父様が旧知の仲なんだっけ?」
「そうそう、だから、なるべくしてって感じよね。でも、近衛先生もついに結婚かぁ〜」
「狙ってる子、たくさんいたし、みんなガッカリするだろうけど、こればっかりはねぇ。家柄的にも、誰も文句は言えないんじゃない?」
中にいるふたりの会話を聞いてしまった私は、身体から力が抜けた。
間違いなく、近衛先生の話だ。
でも、近衛先生に婚約者だなんて。そんな話は当然聞いていないし、本当に寝耳に水だった。
「……っ、」
とてもじゃないけど中に入る気はしなくて、私は踵を返すと逃げるようにその場を去った。
「は……っ、ハァ……」
心臓がバクバクと不穏な音を立てている。
配達用バッグの持ち手を掴む手は震えていて、指先は冷たくなった。