エリート外科医の灼熱求婚~独占本能で愛しい彼女を新妻に射止めたい~
「あ、透くん!」
そのときだ。通用口まであと少し──というところで、鈴を転がすような女性の声が聞こえた。
思わず曲がり角に身を潜めた私は、自分の口元に手をあてる。
「ああ、梨沙子。きてたのか」
続いて聞こえてきたのは、聞き慣れた近衛先生の声だった。
またドキンと心臓が大袈裟に跳ね、私はギュッと瞼を閉じた。
……どうしよう、このままここにいたら盗み聞きみたいになってしまう。
でも、ふたりが話をしているのは警備室の前あたりだ。
帰るには、どうしてもふたりの前を通らなければならない。
「もしかして、また車の中に? もう! あんなところで寝たら身体が休まらないよって、前から言ってるのに」
「ん? ああ、まぁ、そうかもな」
「透くんのお父様も、透くんが全然連絡よこさないって心配してたよ。でも、パパは副院長として透くんの将来が楽しみだって、相変わらずベタ褒めしてるけど」
ドクン、ドクン、と脈打つ心臓の音だけがやけに鮮明に鼓膜を揺らす。
〝梨沙子〟と呼ばれた女性のお父さんが副院長ということは……先ほどお手洗いで話を聞いた近衛先生の婚約者が、この梨沙子さんということで間違いない。