エリート外科医の灼熱求婚~独占本能で愛しい彼女を新妻に射止めたい~
「ふぅ……」
いや、そもそも、私たちは始まってすらいなかったのかも。だけど、そんなふうに考える時点で、私は近衛先生のことを諦められていないし、割り切れてもいない。
けど、今の私には、それ以上のことを考える余裕はなかった。
深く考えてしまったら色々なものが崩れてしまう気がして、必死に見ないふりをしているというのが正しいのかも。
* * *
「なぁ、百合。お前、最近、近衛先生と会ってないだろ?」
だけど、内田さんとそんな話をした日の夜。
一日の仕事を終えて、これから奥さんの待つ家に帰ろうとしていたタツ兄ちゃんに、声をかけられた。
「な、なんで?」
「ほら、俺、今日中央総合病院に出前を届けに行っただろ? そのときに、近衛先生に百合は元気かって聞かれて……。近衛先生から、百合について聞かれるのは初めてだったからさ。なんか、ちょっと意外で驚いて」
ズキンと胸が痛んだのは、近衛先生に対する好きという感情が悲鳴を上げたからだ。
……やっぱり、一ヶ月連絡を絶ったところで、割り切れてなんかいなかった。