エリート外科医の灼熱求婚~独占本能で愛しい彼女を新妻に射止めたい~
「実は、昨日は昼に緊急手術をしたあと、予後が気になって医局に泊まったんだ」
「は……はい。そのお話は、先ほど医局で食器を受け取った際に他の先生から伺いました」
「そうか。昨夜、俺は何か患者さんに変化があれば知らせてほしいと当直医と夜勤の看護師に頼んで、軽く仮眠を取るつもりだったんだが……」
その前に、忙しくて昼食も夕食も取れていなかったことを思い出した近衛先生は、野原食堂に出前を頼んだということらしい。
「本当は食べてから寝るつもりだったんだけど、思った以上に疲れが溜まっていたみたいで。気がついたときには眠っていて、起きたら机の上には頼んだものが置いてあった」
それが、昨夜の近衛先生側から見た出来事というわけだ。
話し終えた近衛先生は、不意に目を細めて口元を緩めた。
「気を使わせて申し訳なかった。それと、ありがとう」
お礼を言われた私は、内心でホッと息をつく。
よかった……寝顔の件は、バレていないみたい。
「い、いえ。私はそんなふうに、お礼を言っていただけるようなことは何もしていないので」
「いや、あのとき仮眠をとらせてもらえたから、その後も問題なく患者さんの処置にあたれた。百合さん……いや、きみのことは、〝百合〟と呼ばせてもらってもいいかな?」
「え……」
極上の笑みと艶のある声で尋ねられ、私は思わず目を瞬いた。
今、近衛先生は私に、百合って呼んでもいいか聞いたの?
別に大したことではないはずなのに、相手が近衛先生というだけで、何故かすごく特別なことに思えてしまう。