エリート外科医の灼熱求婚~独占本能で愛しい彼女を新妻に射止めたい~
 

「おっ、今日のオーダー係は百合ちゃんかぁ」

「原田さん、お久しぶりです。今日は何にします?」


 また、顔なじみのお客さんがやってきた。

 ――私、野原百合は両親が営む町の小さな定食屋、【野原食堂】で約一ヶ月前から働いている。

 というのも大学を卒業後、四年間勤めた中小企業を自己都合退職して実家に戻ってきたのだ。

 会社を辞めた〝本当の理由〟は、両親には話していない。というより、話せなかった。

 代わりに、『取引先とトラブルがあって会社に居づらくなった』と嘘をついたんだけど……。

 職人気質な父は、二十六にもなってだらしがない根性なしだと私のことを強く責め、帰ってきてからずっと私に対する風当たりが強い。


「おい、百合。お前、今から出前行ってこい」

「え? 今から?」

「そうだ。根性なしでも出前くらいできるだろう。今すぐ行ってこい」


 その日は金曜日ということもあり、昼時に続いて夕食時もそれなりに忙しかった。

 すべての片付けを終えたのは、時計の針が二十時半をさした頃だ。

 ようやく一息つけると思っていたのに。

 父から出前の配達命令。

 でも、働かせてもらっている身の私に拒否権はない。

 私は内心でため息をつくと、外したばかりのエプロンをつけ直した。

 
< 5 / 142 >

この作品をシェア

pagetop