エリート外科医の灼熱求婚~独占本能で愛しい彼女を新妻に射止めたい~
「おっ、今日のオーダー係は百合ちゃんかぁ」
「原田さん、お久しぶりです。今日は何にします?」
また、顔なじみのお客さんがやってきた。
――私、野原百合は両親が営む町の小さな定食屋、【野原食堂】で約一ヶ月前から働いている。
というのも大学を卒業後、四年間勤めた中小企業を自己都合退職して実家に戻ってきたのだ。
会社を辞めた〝本当の理由〟は、両親には話していない。というより、話せなかった。
代わりに、『取引先とトラブルがあって会社に居づらくなった』と嘘をついたんだけど……。
職人気質な父は、二十六にもなってだらしがない根性なしだと私のことを強く責め、帰ってきてからずっと私に対する風当たりが強い。
「おい、百合。お前、今から出前行ってこい」
「え? 今から?」
「そうだ。根性なしでも出前くらいできるだろう。今すぐ行ってこい」
その日は金曜日ということもあり、昼時に続いて夕食時もそれなりに忙しかった。
すべての片付けを終えたのは、時計の針が二十時半をさした頃だ。
ようやく一息つけると思っていたのに。
父から出前の配達命令。
でも、働かせてもらっている身の私に拒否権はない。
私は内心でため息をつくと、外したばかりのエプロンをつけ直した。