エリート外科医の灼熱求婚~独占本能で愛しい彼女を新妻に射止めたい~
「大丈夫。お母さんだって疲れてるのは同じでしょ。行ってくるよ」
そうして私は注文の品を配達用のバッグに詰めると、大通りを挟んで向かい側にある中央総合病院へと徒歩で向かった。
「いつ来ても、ほんとに大きな病院だよね……」
配達先の中央総合病院は、地域医療を担っているこのあたりでは一番歴史の古い大病院だ。
地下二階、地上七階建ての建物の中には二百五十近い病床を備えているらしい。
腕の立つお医者さんが何人もいて、患者さんからの信頼も厚いことで有名だった。
そんな中央総合病院は、昔から野原食堂をご贔屓にしてくれていて、月に何回か職員さんたちから出前の注文をもらっていた。
「すみません、野原食堂です。外科医局から出前の注文を受けて届けに来ました」
お母さんに言われたとおり、病院の通用口から入って、守衛さんに声をかけた。
そして、教えてもらった外科医局へと向かう。
夜の病院をウロウロするのは初めてで、なんだか私は緊張していた。
エレベーターまで続いている廊下は薄暗く、ちょっとお化け屋敷を歩いているみたい。
「すみませーん、野原食堂です。ご注文の品をお届けに来ました」
けれど、医局の前に着いて中に声をかけてみたら、肝心の注文相手からの返事がなかった。
もしかして、不在とか?
そういえば前にタツ兄ちゃんが、病院への配達は受け渡しがスムーズにいかないときがあるって言ってたっけ……。
たとえば出前を依頼した直後に急患が入って、突然のオペになったりした場合だ。
そのときにはタツ兄ちゃん宛に、医局内のテーブルの上に、お金と事情説明が書かれたメモ用紙が置いてあったって言ってたけど……。