エリート外科医の灼熱求婚~独占本能で愛しい彼女を新妻に射止めたい~
 

「私はここで生まれ育って、お父さんとお母さんの背中をずっと見てきた。それで、仕事を辞めて帰ってきてからも、野原食堂で働きながら自分はこれからどうするべきなのか、頭の片隅でずっと考えてた」


 私はこれから、どうしていきたいんだろう。どうするべきなんだろう。

 散々悩んで、悩み抜いた先で頭に浮かんだのは、野原食堂に集まる人たちの笑顔だった。


「私は、野原食堂とここに集まる人たちのことが大好きだから。みんなのために、もっと心を込めたサービスを提供できたらいいなって思ったの」

「心を込めたサービス?」

「うん。ほら、たとえばだけど、うちの常連の内田さんいるでしょ? 内田さんってピーマンが苦手で、いつも回鍋肉はピーマン抜きで頼むよね」


 そんな内田さんに対して、ピーマンではなく別の何かで栄養を補えるようなものを提供できたらどうだろう。

 そうすることで内田さんにとってプラスになるんじゃないかと思った。


「野原食堂の常連さんの中には、高齢の人や、身体に持病を抱えている人もいる。そんな人たちや、これから新しく通ってくれる人たちのために、心も身体も喜んでもらえるようなメニューを提供できれば、ここに集まるみんなのためになるんじゃないかな」


 そう思えたのはもちろん、田所さんのことも関係している。

 田所さんが病気を克服し、また野原食堂に通えるようになったときに、最善のサービスでお迎えしたいと思ったんだ。

 だけど、それを叶えるのに必要なのは、付け焼き刃ではない、確かな知識。

 そうしてたどり着いたのが、栄養士という道だ。

 ここに集まる人たちの笑顔のために。そして、お父さんやお母さん、野原食堂を継ぐ予定のタツ兄ちゃんの力になりたいと思った。

 
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