クールな副社長はウブな彼女を独占欲全開で奪いたい
「頼むから送らせてほしい」

「今朝もバスで問題ありませんでした。だから」

「たった十分だよ。その短い時間ですら、俺と一緒にいたくない?」

 そんな言い方をされたら断りづらい。

 たしかに十分間というのはあっという間に過ぎ去る時間だ。

「……本当に、これで最後にしてくださいね?」

「そうしてほしいなら、そうするよ」

 遥人さんは深い溜め息をつく。

 無理を言っているのは遥人さんの方なのに。溜め息をつきたいのはこっちだよ。

 心の中で不満を言って、シートに腰を下ろした。

 走り出した車内では、いつも通りの他愛のない会話をする。昨日の電話でのやり取りがなかったかのように、彼には気まずい雰囲気がない。

 車はあっという間にマンションへ到着した。本当に十分なんて一瞬だ。

「ちょっと待ってね。後ろに置いてあるから」

 遥人さんが後部座席から紙袋を取ろうとした時だった。彼のスマートフォンが振動する音がささやかに響く。

「ごめん。伶香だ。出てもいいかな」

「……どうぞ」

 頷いてから口を引き結んだ。

 なんてタイミングが悪いのだろう。
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