クールな副社長はウブな彼女を独占欲全開で奪いたい
 この胸の痛みは、素敵な家族を前にして自分がひどく汚い人間なのだと実感したからだろうか。

 ひっそり恋心を抱くことすら、伶香さんや結愛ちゃんに失礼だ。

「待たせたね」

 通話を終えた遥人さんがふわりと優しく微笑む。

「いえ」

「餡子が食べられるか分からないから、お饅頭とお煎餅にしたよ」

 紙袋を受け取って頭を下げる。

「ありがとうございます。姉も私も餡子大好きです。お煎餅も」

「よかった。ここの和菓子は上品な甘みの餡子だから、きっと美味しいよ」

 これ以上幸せな家庭に自分は近づいてはいけない。これで最後。

 もう二度と個人的なかかわりは持たないと決心して笑顔を作った。

「いろいろとありがとうございました。それでは失礼しますね」

「あっ、白峰さ……」

 最後まで聞かずに外へ出て、パタンッとドアを閉める。振り返らずにエントランスをくぐった。

 お礼を伝えた時、遥人さんは僅かに目を見開いて驚いたような顔をしていた。

 いったい彼がなにを思ったのか。二度と知りえない彼の気持ちに、不謹慎だと分かっているのにまた胸が張り裂けそうなほど苦しくなった。


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