クールな副社長はウブな彼女を独占欲全開で奪いたい
 柄にもなく、気持ちが昂って呼吸が浅くなっていたようだ。

「すごい。もう心臓が動いているのか」

 呟いてから、なにをあたり前の発言をしているのかと思う。しかし小春は俺を馬鹿にしたりせず、穏やかな声音で「不思議ですよね」と微笑んだ。

 今すぐにでも抱きしめたい衝動に駆られたが、さすがに病院でそれはダメだろう。

 代わりに形のいい頭をするりと撫でた。

 それでも俺の行動に困り果てた小春は、目を泳がせて恥ずかしそうに俯く。

 周りの目もあるので仕方なく手を下ろした。

 必要な検査を終えて病院の外へ出る頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。

 肌を突き刺すような冷たい風を頬に受けながら、小春を胸に抱き寄せる。
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