クールな副社長はウブな彼女を独占欲全開で奪いたい
「湯川さん。またスタッフをつけずに移動したんですか」

 さっき注意をしたばかりなのに。私は眉間に皺を寄せる。

 湯川さんが使用する歩行器は四脚のフレーム構造でできていて、多脚のため人の支えがなくても自立できる。

 一見安定しているように見えるのだが、これは腕の力があまりなく、バランスが悪い人が使用するもの。

「ごめんごめん。ゆっくり歩いているからさ」

「それでもいつ躓くか分からないですし、湯川さんには介助がつく決まりになっているので、お願いしますよ」

 もうっ、と苦い笑いを混ぜて伝える。

 湯川さんは片手で『ごめん』のポーズを取って、取り繕うように笑った。

 前方にスタッフのひとりが歩いているのが見えたので、手を上げて大きな声で呼ぶ。

「湯川さんの介助お願いしまーす!」

「ちょっと待ってねー!」

 同じように大きな声が返ってきたので安堵の息をつく。それから慌てて遥人さんに目配せした。

「すみません」

「大丈夫ですよ。むしろここの雰囲気が知れて助かります」

 なんて心の広い人なのだろう。拝みたい気持ちを抑えてお礼を言う。
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